アモンティリャード

レベル1(初級)


アモンティリャード

むかし、イタリアにモントレゾールというおとこんでいました。
かれしずかでまじめでした。
かれ物事ものごとわすれませんでした。
かれ簡単かんたんにはひとゆるしませんでした。

まちにはもう一人ひとりおとこがいました。
かれ名前なまえはフォルトゥナートでした。
おおくのひとかれきでした。
かれわらうことがきでした。
かれはパーティーがきでした。
かれはワインをむことがきでした。
かれ自分じぶんはワインをよくっているとおもっていました。

モントレゾールはフォルトゥナートがきではありませんでした。

フォルトゥナートは何度なんどかれわるいことをいました。
かれ人々ひとびとまえかれわらいました。
モントレゾールはこころなかおこりました。
しかしかれいかりをせませんでした。
フォルトゥナートをると、かれはほほえみました。
そしてやさしくはなしました。

しかしこころなかでは復讐ふくしゅうしたいとおもっていました。

あるよるまちおおきなまつりがありました。
人々ひとびと仮面かめんをつけ、あかるいふくていました。
人々ひとびととおりでおどりました。
うたい、みました。
音楽おんがくはどこにでもありました。

モントレゾールはまつりのなかでフォルトゥナートをました。

フォルトゥナートはおかしな衣装いしょうていました。
かれ道化師どうけしのようでした。
かれいろおおふくて、ちいさなすずのついた帽子ぼうしをかぶっていました。
うごくとすずちいさなおとしました。
かれはもうっていました。

ともよ!」フォルトゥナートはうれしそうにいました。
「なんていいよるだ!」

ともよ」とモントレゾールはほほえんでいました。
えてうれしい。きみたすけが必要ひつようだ。」

わたしたすけ?」フォルトゥナートはきました。

「そうだ」とモントレゾールはいました。
今日きょうわたしはワインのたるいました。
ったひとはアモンティリャードだといました。
しかしわたしはよくかりません。」

「アモンティリャード?」フォルトゥナートはいました。
まつりのあいだに?それはおかしい。」

「たぶんわたし間違まちがえました」とモントレゾールはいました。
「ルケーシにあじてもらいます。」

「ルケーシ?」フォルトゥナートはわらいました。
「ルケーシはワインがからない。
わたしあじます。」

モントレゾールは心配しんぱいそうにました。
きみはせきがあります。
わたし地下室ちかしつ空気くうきつめたいです。」

大丈夫だいじょうぶです」とフォルトゥナートはいました。
「ワインを味見あじみしたいです。」

かりました」とモントレゾールはいました。

二人ふたりはモントレゾールのいえあるきました。
とおりはにぎやかであかるかったです。
しかしすぐにくらいえなかはいりました。

召使めしつかいはいません」とモントレゾールはいました。
まつりをたのしんでいます。」

かれかべからたいまつをふたりました。
ひとつをフォルトゥナートにわたしました。

「こちらへてください」といました。

二人ふたりながいし階段かいだんりました。
空気くうきつめたくなりました。
かべはぬれていました。
とてもしずかでした。

フォルトゥナートはせきをしました。

もどりましょう」とモントレゾールはいました。
「あなたの健康けんこう大切たいせつです。」

「いいえ」とフォルトゥナートはいました。
「アモンティリャードです。」

二人ふたりいえしたへさらにすすみました。
たくさんのワインのびんたるがありました。
かべちかくにはふるほねやまもありました。
それはむかしのモントレゾールの家族かぞくほねでした。

フォルトゥナートは見回みまわしました。

「ここはふる場所ばしょですね」といました。

「そうです」とモントレゾールはこたえました。

フォルトゥナートはまたせきをしました。

モントレゾールはワインのびんわたしました。

「これをんでください」といました。
「よくなります。」

フォルトゥナートはんでわらいました。
帽子ぼうしすずがまたりました。

二人ふたりはさらにすすみました。
トンネルはちいさくなりました。
天井てんじょうひくくなりました。
空気くうきおもくなりました。

ついにかべなかちいさなくら場所ばしょました。

「アモンティリャードはなかです」とモントレゾールはいました。

フォルトゥナートはそのなかはいりました。
そこはせま場所ばしょでした。
おくにはいしかべがありました。

かれはなすためにきました。

しかしそのまえにモントレゾールはすぐうごきました。

かれはフォルトゥナートのからだくさりをつけました。
くさりはすでにかべにありました。
かれはそれをかぎめました。

フォルトゥナートはとてもおどろきました。

なにをしているのですか?」ときました。

モントレゾールはこたえませんでした。

かれ地面じめんからいしとセメントをりました。

そしてかべつくはじめました。

いしひとつずつ。

最初さいしょ、フォルトゥナートはわらいました。

「これは冗談じょうだんだ!」といました。
まつりのいい冗談じょうだんだ!」

モントレゾールは作業さぎょうつづけました。

かべたかくなりました。

フォルトゥナートはくさりきました。
しかしこわれませんでした。

「モントレゾール?」といました。
「この冗談じょうだんをやめてください。」

モントレゾールはつくつづけました。

かべはフォルトゥナートのむねまでました。

フォルトゥナートはさけはじめました。

こえはトンネルにひびきました。

モントレゾールはまり、きました。

そしてフォルトゥナートよりおおきなこえさけびました。

しばらくしてフォルトゥナートはつかれました。
こえよわくなりました。

かべはどんどんたかくなりました。

ちいさなあなだけがのこりました。

かみあいのために、モントレゾール!」とフォルトゥナートはさけびました。

「そうです」とモントレゾールはしずかにいました。
かみあいのために。」

かれ最後さいごいしきました。

そしてセメントをぬりました。

かべ完成かんせいしました。

モントレゾールはっていました。

みみをすませました。

おとはありませんでした。

かれふるほねかべまえもどしました。
だれあたらしいいしることはできませんでした。

それから地下室ちかしつました。

おおくのとしぎました。

だれもフォルトゥナートをつけませんでした。

そのよるなにこったのか、だれりませんでした。

モントレゾールはだれにもはなしませんでした。

かれ後悔こうかいしませんでした。

かれ侮辱ぶじょくおぼえていました。

そしてしずけさをおぼえていました。

フォルトゥナートよ、やすらかにねむれ。

レベル2 (中級)


アモンティリャード

わたしはフォルトゥナートからおおくの侮辱ぶじょくけてきた。しかしかれがついに限度げんどえたとき、わたし復讐ふくしゅうするとめた。わたしかれおどさなかった。いかりもせなかった。復讐ふくしゅうとは、ばつあたえるもの自分自身じぶんじしん危険きけんにさらしてはならない。また、そのばつ意味いみ相手あいてからなければならない。だからわたし注意深ちゅういぶかく、危険きけんのない方法ほうほう行動こうどうするつもりだった。ばつけるものは、だれがそれをしたのか理解りかいしなければならない。

フォルトゥナートには弱点じゃくてんがあった。かれ自分じぶんをワインの専門家せんもんかだとおもっていた。ワインの品質ひんしつ年代ねんだい産地さんち値段ねだんについて、何時間なんじかんでもはなすことができた。おおくのひとかれ意見いけん尊重そんちょうしていた。わたしはこのほこりがやくつとっていた。

カーニバルの季節きせつまちおと興奮こうふんであふれていた。人々ひとびと仮面かめんをつけ、あかるい衣装いしょうていた。音楽おんがくとおりにち、だれ真面目まじめなことにはあまり注意ちゅういはらっていなかった。まさに絶好ぜっこう機会きかいだった。

わたし夜遅よるおそくにフォルトゥナートと出会であった。かれはすでにさけんでいた。いろあざやかな衣装いしょうており、帽子ぼうしにはちいさなすずがついていた。うごくたびにすずった。かおあかく、かがやいていた。

親愛しんあいなるモントレゾール!」とかれさけんだ。
今夜こんやここでえるとは、なんという幸運こううんだ!」

したしいともよ」とわたしこたえた。こころなかかくしながら、あたたかくはなした。
「ちょうどきみいたいとおもっていた。わたしはアモンティリャードだとわれたワインのたるったのだが、本物ほんものかどうか自信じしんがない。」

「アモンティリャード?」とかれおどろいてった。
「ありえない!しかもカーニバルの最中さいちゅうに?」

わたしへんだとおもう」とわたしった。
きみ相談そうだんしないで、うっかり全部ぜんぶ値段ねだんはらってしまった。いまからルケーシにてもらおうとおもっていた。」

「ルケーシだって?」フォルトゥナートはつよった。
「ルケーシはアモンティリャードと普通ふつうのワインのちがいもからない。」

かっている」とわたししずかにった。
「しかしかれ判断はんだんきみおなじくらいだとひともいる。」

フォルトゥナートのほこりは刺激しげきされた。
い」とかれった。
いますぐこう。」

わたしはわざとすこしためらった。
ともよ、きみはひどいせきをしている。わたし地下貯蔵室ちかちょぞうしつ空気くうき湿しめっていてつめたい。」

大丈夫だいじょうぶだ」とかれこたえた。
「せきでぬことはない。こう。」

わたし微笑ほほえんだ。かれ自分じぶんえらんだのだ。

わたしたちはひとでいっぱいのとおりをあるき、やがてわたしいえいた。予想よそうしたとおり、召使めしつかいたちはいなかった。わたしあさまでもどらないとっておいたので、かれらがいなくなることはかっていた。わたしたちはたいまつをり、いえした地下室ちかしつへとりていった。

階段かいだんながせまかった。したくほど空気くうきつめたくなった。かべにはしろ物質ぶっしつがついており、たいまつのひかりひかっていた。

フォルトゥナートははげしくせきをした。

「ここは湿気しっけつよい」とわたしった。
もどったほうがいい。」

「いや」とかれった。
「アモンティリャードだ。」

わたしたちはくら部屋へやをいくつもとおけた。そこにはワインのたるびんならんでいた。ゆかはでこぼこしていた。場所ばしょによってはほねやまかべのそばにまれていた。それは何代なんだいまえ埋葬まいそうされたわたし家族かぞく遺骨いこつだった。

フォルトゥナートはわたしわたしたびんのワインをみ、からだあたためようとした。かれおおきくわらい、帽子ぼうしすずがまたった。

きみなが人生じんせいに」とかれってびんげた。

「そしてきみ健康けんこうに」とわたしこたえた。

さらにおくすすむと、通路つうろはだんだんせまくなった。天井てんじょうひくく、かべ湿しめっていた。フォルトゥナートのせきはひどくなったが、かれもどろうとしなかった。

やがていわなかちいさな入口いりぐちいた。そこは一人ひとりがやっとはいれるほどのおおきさだった。

「アモンティリャードはこのなかだ」とわたしった。

フォルトゥナートはためらわずまえすすんだ。せま空間くうかんはいり、なか見回みまわした。おくにはたいらでかたかべがあった。

かれ反応はんのうするまえに、わたし素早すばやうごいた。そこにすでに固定こていされていたてつ使つかって、かれかべにつないだ。それはほんの一瞬いっしゅん出来事できごとだった。かれおどろきすぎて抵抗ていこうできなかった。

「これはなんだ?」とかれわらおうとしながらいた。

わたしこたえなかった。せま空間くうかんからて、用意よういしてあったいしとセメントをひろった。

そして入口いりぐちかべつくはじめた。

最初さいしょ、フォルトゥナートは冗談じょうだんだとおもっていた。

「とても面白おもしろい!」とかれった。
「カーニバルのいい冗談じょうだんだ!」

わたしだまって作業さぎょうつづけた。

いくつかいしむと、かれくさりはじめた。金属きんぞくおとせま通路つうろおおきくひびいた。

「モントレゾール?」とかれすこ真剣しんけんった。

わたしこたえなかった。

かべすこしずつたかくなった。わたしいて慎重しんちょう作業さぎょうつづけた。

かべかれむねまでたとき、かれさけはじめた。こえ地下室ちかしつひびいた。わたしはしばらくまっていた。そしてかれよりおおきなこえさけかえした。そのおとわたしった。しばらくするとかれつかれ、さけごえよわくなった。

ちいさなあなだけがのこったとき、かれはもう一度いちどはなそうとした。

かみあいのために、モントレゾール!」とかれさけんだ。

「そうだ」とわたししずかにった。
かみあいのために。」

しかしわたし最後さいごいしつづけた。

ちいさなあなから、たいまつのひかりなかかれひかっているのがえた。帽子ぼうしすずのかすかなおとこえた。

そして沈黙ちんもくおとずれた。

わたし最後さいごいしき、セメントでかためた。かべ完全かんぜんにできあがった。だれもそのこうになにがあるかうたがうことはない。

わたしほねもと場所ばしょもどして、あたらしいかべかくした。

しばらくそのつめたい空気くうきなかっていた。みみをすませていた。

おとなにもなかった。

後悔こうかいはなかった。わたし計画けいかくどおりにすべてを実行じっこうした。かれわたし侮辱ぶじょくし、わたしはそれにこたえたのだ。もしおぼえていれば、かれけっしてわすれなかっただろう。

わたしたちは友人ゆうじんとしてあるいていた。しかしかれは、自分じぶんがすでに運命うんめいえらんでいたことを理解りかいしなかった。かれほこりがかれ暗闇くらやみみちびいたのだ。

あのよるからなが年月ねんげつぎた。だれ地下室ちかしつうごかしていない。いしはそのままのこっている。ほねもそのまえしずかにかれている。

フォルトゥナートはいまつかっていない。

やすらかにねむれ。

レベル3 (上級)


アモンティリャード

フォルトゥナートからけたかぞえきれないほどの侮辱ぶじょくを、わたしはできるかぎりえてきた。しかしかれがついに明確めいかく侮辱ぶじょくんだとき、わたし復讐ふくしゅうちかった。わたしうごかしたのはたんなるいかりでも、きずついた自尊心じそんしんだけでもなかった。もっとふか確信かくしん、つまり正義せいぎ――わたしにとっての正義せいぎ――が行動こうどうもとめていたのだ。わたしかれおどすこともなかったし、態度たいどうらみの気配けはいせることもなかった。復讐ふくしゅうとは、復讐ふくしゅうするもの危険きけんおかしてはならない。また、ばつ意味いみ相手あいて理解りかいされなければならない。わたし慎重しんちょう行動こうどうするつもりだった。そして危険きけんともなわない方法ほうほう行動こうどうするつもりだった。

フォルトゥナートには弱点じゃくてんがあった。それがかれもろくしていた。かれ一般いっぱんには尊敬そんけいされ、ときには賞賛しょうさんさえされていたが、なによりも自分じぶんのワインの知識ちしきほこりにしていた。ヴィンテージやあじかんしては、自分じぶん味覚みかくがイタリアのどのおとこよりもすぐれているとしんじていた。かれ挑戦ちょうせんするものはほとんどいなかったし、かれ自信じしん匹敵ひってきするものはさらにすくなかった。この虚栄心きょえいしんこそが、わたし目的もくてき役立やくだつものだった。

カーニバルの最盛期さいせいきとおりがわらごえ音楽おんがくであふれていたとき、わたしかれ偶然ぐうぜん出会であった――すくなくともそうえた。よる色彩しきさいちていた。仮面かめん人々ひとびと正体しょうたいかくし、ったこえとおくの楽器がっきおとよりもたかひびいていた。そのような混乱こんらんなかでは、ほとんどどんな行為こういでもづかれずにんだ。

フォルトゥナートは道化師どうけし衣装いしょうていた。からだにぴったりした色鮮いろあざやかなしまふくて、さきのとがった帽子ぼうしにはちいさなぎんすずがついていた。かれうごくたびにすずがやさしくった。かおあかく、つよいワインのかおりがかれまわりにただよっていた。かれあたたかく、そしておおげさなほどのしたしさでわたしむかえた。

親愛しんあいなるモントレゾール!」とかれさけんだ。
「ここでえるとは、なんという幸運こううんだ!」

したしいともよ」とわたしおな熱意ねついこたえた。内心ないしんかくすように注意ちゅういしながら。
「ちょうどきみいたいとおもっていたところだ。アモンティリャードだとわれる酒樽さかだるれたのだが、本物ほんものかどうか確信かくしんてない。」

「アモンティリャード?」とかれかえした。かがやいた。
「ありえない!しかもカーニバルの最中さいちゅうに?」

わたしうたがっている」とわたしみとめた。
きみ相談そうだんせずに代金だいきんはらってしまった。ルケーシに意見いけんきにくところだった。」

その名前なまえいた瞬間しゅんかん、フォルトゥナートの表情ひょうじょうかたくなった。
「ルケーシはアモンティリャードと普通ふつうのシェリーのちがいもからない。」

たしかに」とわたしおだやかにった。
「しかしかれ判断はんだんきみおなじくらいだとひともいる。」

その言葉ことばかれほこりを刺激しげきした。
い」とかれはすぐにった。
いますぐこう。」

わたしはわざとためらうふりをした。
ともよ、きみはひどいせきをしている。わたし地下貯蔵室ちかちょぞうしつ空気くうき湿しめっていてつめたい。きみ健康けんこう危険きけんにさらしたくはない。」

かれってわたし心配しんぱい退しりぞけた。
問題もんだいない。せきなどたいしたことではない。アモンティリャードだ!」

自分じぶんほこりに後押あとおしされるかたちで、かれわたし同行どうこうするとった。わたしたちはカーニバルのさわぎをあとにして、わたし屋敷やしきかった。予想よそうどおり、召使めしつかいたちはいなかった。わたしあさまでもどらないとつたえ、いえてはならないときびしくめいじていた。かれらの性格せいかくかんがえれば、その命令めいれいわたしけた瞬間しゅんかん外出がいしゅつすることを保証ほしょうしているとかっていた。

わたしたちはかべからたいまつをり、いえしたひろがる地下墓所ちかぼしょへとはじめた。階段かいだんせま不規則ふきそくで、地中ちちゅうへと螺旋状らせんじょうつづいていた。すすむにつれて空気くうきつめたくなり、湿気しっけ腐敗ふはいにおいがおもただよっていた。いしかべにはしろ硝石しょうせきそう付着ふちゃくし、たいまつのひかりなかでかすかにかがやいていた。

フォルトゥナートは何度なんどもせきをした。

もどったほうがいい」とわたし提案ていあんした。
きみ健康けんこうはとても大切たいせつだ。きみ尊敬そんけいされ、称賛しょうさんされる人物じんぶつだ。きみ病気びょうきにさせる責任せきにんいたくない。」

「せきでぬことはない」とかれ苛立いらだってこたえた。
「アモンティリャードだ。」

かれ不快ふかいやわらげるため――あるいは感覚かんかくにぶらせるため――わたしはメドックのびんした。かれふかみ、わらうたびに帽子ぼうしすずたのしげにった。

「ここにねむものたちのために」とかれい、ほねおおわれたかべゆびした。

「そしてきみなが人生じんせいのために」とわたしこたえた。

わたしたちはさらにおくすすんだ。そこには酒樽さかだるならび、わたし祖先そせんほねまれていた。空気くうきはますますおもくなり、硝石しょうせきかべあつ付着ふちゃくしていた。天井てんじょうからは水滴すいてきがゆっくりとちていた。

やがて地下墓所ちかぼしょおくちいさなくぼみがあらわれた。そこはせまかべ隙間すきまのような場所ばしょで、わきにはのぞかれたほねまれていた。

「アモンティリャードだ」とわたしい、暗闇くらやみした。

フォルトゥナートはためらわずなかはいった。空間くうかんあさく、おくかた花崗岩かこうがんかべだった。かれはさらにおくすすみ、暗闇くらやみをのぞきんだ。

その瞬間しゅんかんわたしかれらえた。

あらかじめ準備じゅんびしておいたてつくさりを、かべ固定こていされたとおし、かれこしきつけた。うごきは素早すばや決定的けっていてきだった。状況じょうきょう完全かんぜん理解りかいするまえに、かれうごけない状態じょうたいになっていた。

かれ困惑こんわくした表情ひょうじょうわたした。
「これはなんだ?」

わたし説明せつめいしなかった。わりにほねうしろにかくしておいた石材せきざいとこてをし、入口いりぐちかべきずはじめた。

最初さいしょかれはそれを冗談じょうだんだとおもった。くらいカーニバルの余興よきょうだと。

素晴すばらしい冗談じょうだんだ!」とかれわらおうとした。
屋敷やしきもどったらわらばなしになる。」

わたしいしひとつずつみ、モルタルを丁寧ていねいった。かべはゆっくりとわたしたちのあいだがった。

やがてくさりおと沈黙ちんもくやぶった。かれ必死ひっしからだうごかし、金属きんぞくはげしいおと地下室ちかしつひびいた。

「モントレゾール?」とかれ不安ふあんそうにんだ。

わたしこたえなかった。

作業さぎょうつづいた。かべかれむねまでたっしたとき、かれわらいは恐怖きょうふわった。

「これはばかげている!」とかれさけんだ。
解放かいほうしろ!」

わたしだまって作業さぎょうつづけた。

そしてさけごえはじまった。

それははげしく、せま空間くうかん絶望的ぜつぼうてき反響はんきょうひろげた。わたし一瞬いっしゅんめた。しかしそれはまよいではなく、ただかんがえていただけだった。そのこえつよかったが、地上ちじょうにはとどかない。あつつちいしわたしたちをへだてていた。やがてわたし自分じぶんこえげ、かれさけびにこたえた。やりりは数分すうふんわり、やがてかれちからきた。

沈黙ちんもくもどった。

わたしふたた作業さぎょうつづけた。

ちいさなあなだけがのこったとき、かれはもう一度いちどこえした。

かみあいのために、モントレゾール!」とかれ懇願こんがんした。

「そうだ」とわたししずかにこたえた。
かみあいのために。」

それ以上いじょううことはなかった。

せま隙間すきまから、たいまつのひかり反射はんしゃするかれえた。帽子ぼうしすずがかすかにふるえた。しかしそのおともすぐにえた。

わたし最後さいごいしき、モルタルで固定こていした。かべ完全かんぜんにできあがった。作業さぎょうかくすため、わたしほねもと場所ばしょもどした。

わたし地下墓所ちかぼしょしずけさのなかにしばらくっていた。たいまつのれていた。みみをすませたが、かべこうからおとなにこえなかった。

わたしこころいていた。

すべては危険きけんもなく、目撃者もくげきしゃもなく、完全かんぜん確実かくじつさのなかわった。かれわたし侮辱ぶじょくした。そしてわたしはそれにこたえた。かれ自分じぶん虚栄心きょえいしんによってみちびかれ、奥深おくふかくへとあゆみをすすめてしまった。かれ破滅はめつさせたのはちからではなく、ほこりだった。

あのよるからなが年月ねんげつぎた。半世紀はんせいき以上いじょうである。いしはそのままのこり、地下墓所ちかぼしょひらかれていない。あのかべこうになにがあるのか、きているものだれらない。

フォルトゥナートはカーニバルのよる姿すがたした。混乱こんらん時代じだいにはよくあることだった。最初さいしょ疑問ぎもんまれたが、真実しんじつにたどりくものはなかった。

わたしなが沈黙ちんもくあと、ついにこのはなしかたった。

やすらかにねむれ。

リスニング練習

レベル 1 オーディオ:

レベル 2 オーディオ:

レベル 3 オーディオ:

ナチュラル解説:

自然な会話:


Let’s keep reading about…
Continuemos leyendo sobre…

〜について続きを読みましょう